インタビュー

第4回は藤沢とおる先生です。

藤沢とおる先生

藤沢先生は以前から全国の児童養護施設を個別に取材、訪問しており、現在、児童養護施設を舞台にした作品を連載中です。

今回は、2009年8月にビースマイルサポーターとして初めて長崎の「椿の森学園」を訪問したときのお話を伺いました。

ワガママな子どもがそのまま親になってしまう時代

Q.まずは藤沢先生が現在連載している作品を教えてください。

週刊少年マガジンで『GTO SHONAN 14DAYS』を連載しています。この作品は以前連載していた『GTO』の特別編で、今回は児童養護施設を舞台にしました。

Q.舞台を児童養護施設にしてみようと思ったきっかけは何ですか?

きっかけはビースマイルで活動していた本先生や葉月先生から聞いた、情緒障害児短期治療施設や児童養護施設への施設訪問の話です。
元々、自分も児童養護施設出身なんですが、二人の話を聞いているうちに、自分のいた頃より預けられる子供達の事情がディープだな、と思い、ひとつの問題提起として描いてみる気になったんです。
そんなわけで、8月に行われた「椿の森学園」の施設訪問に、ビースマイルサポーターとして参加させてもらいました。

Q.今回「椿の森学園」を訪問してみて、子ども達の印象はどうでしたか?

子ども達は、考えていたよりずっと「普通だな」と感じました。自分の頃と変わらないと。
でも、その「普通さ」は、お客さんが来ている時だけのものなのだと施設の職員さんに聞いたんです。
考えさせられましたね。
自分が居た頃は知らない人が来ても、よそよそしい態度しか出来ませんでしたから、学園の子供たちの、あの笑顔や人なつっこさが「よそ行き」だったのかなって思うとなんだかね。
そして、子ども達の笑顔をずっと続けていくにはどうしたらいいんだろうかと。

Q.今、家庭で虐待を受けている子ども達が増えてきています。この問題をどう思われますか?

やはり色々な施設を訪問して、一番びっくりしたのはそこなんですよね。
少子化で子どもが減っているのに施設に入る子ども達は増えているという現状…。
それだけ虐待がどんどん広まっているということですよね。
自分達の居た頃には経済的理由などで預けられている子供が圧倒的でしたから。
子どもを持つ年齢になって良くわかったんですけれど、人間って年をとっても意外に、中身は子どもの時と変わってない気がするんです。
でも、子どもを育てる立場になったとき、そういった子どもと同レベルの感覚で、「ざけんなよ!!」と子どもに対して接していたとしたら、大人として凄く未熟なんじゃないか?
そういう大人が増えたことが、虐待や育児放棄といった問題の一因なんじゃないか?
そう思うんですよね。

Q.子ども達の問題ではなく、親がどうあるべきか?という問題として捉えていると。

そういうことです。以前の連載でも、親と子を扱ったエピソードをいくつか描いたんですけど今回の『GTO SHONAN 14DAYS』でもそういう親のあり方みたいなものを描きたいと思いました。
児童養護施設の問題も、「大人のあり方」という根深い社会問題の一つだと思っているので。

Q.大人達というキーワードが出ましたが、藤沢先生が子どもの頃の大人達と今の大人達、何か違いを感じますか?

そうですね…、はっきりとした差があるかどうかは難しいところですけれど、今の大人は少し自己中心的になってきている気がします。
自分本位になっちゃってる。
一昔前、自分の時代もそうだったんですけれど、悪いことをすれば親や学校の先生には結構バンバン叩かれました。もちろん、愛情をもってですが。
でも今はそれはダメっていう時代です。
これは甘やかされて育った未成熟な大人達が、個人の自由や権利を主張することばかりを子供達に教える結果になっているように思います。
ワガママになった親がわがままな子を作る。
そんな時代になってるのかもしれませんね。

Q.漫画作品として児童虐待等の問題を取り上げていく過程で、新たに気づいた事などあったら教えてください。

実際に施設を訪問し、取材をする中で気づいたことは、「子どもはいつの時代になっても変わらない」ということです。
問題があるのは子ども達ではない。そう再確認しました。
問題は、世の中全体の愛情が欠如してしまっている事だと思うんです。
親が自己中心的になり愛情をもって子ども達に接することが出来なくっている事も、その大きな時代の流れの中の問題の一つだと思います。

Q.今回の施設訪問で心に残ったエピソードがあれば教えてください。

施設の職員さんから、「ビースマイルメンバーが何回か訪問を重ねるうちに、少しずつだけれど、子ども達の表情が明るくなってきた」というお話を伺いました。
自分は漫画を描くことしか出来ないけど、もしそれで何か変わるのだったら、またこういった活動に参加したいと思います。

Q.最後に、児童虐待の問題に関心を持ち、このページを開いてくれた読者に一言お願いします。

新連載の『GTO SHONAN 14DAYS』を描き始めて一話目が掲載された時に、ある児童養護施設の職員の方からお手紙を頂いたんです。
こういう問題を気軽に漫画に描くのは良くないんじゃないか?という内容でした。
けれど逆に、もっと多くの人に知って欲しい!と言う意見をくださる職員さんも沢山いるんですね。
だからこれからも、少しでも多くの人達にこういった世界もあるんだよと、施設出身者として、知ってもらえるよう活動していきたいと思っています。
今日、施設で会った子達が「かわいい」「かわいそう」で終わるんじゃなくて、もっと長い目で、大人になるまでケアできるシステムを社会全体でつくっていかなきゃならない。
世間に、虐待という問題を抱える子達が多くいることを知ってもらい、その子達が安心して社会で生きていけるような環境づくりをみんなで考えていきましょう。

藤沢とおる先生画

■取材後記■

僕自身、まだ成長過程で子どもと、大人の境界線は引けていないのも事実。これからもっと長く、子ども達と向き合って答えを探していきたい。
語り口は静かでしたが、ご自身の施設での体験から語られる力強い言葉がとても印象的でした。
藤沢先生、お忙しい中、本当にありがとうございました。
次回は、アニメやゲーム、TVナレーションで大活躍中の声優、『えみぞ~』こと宇和川恵美さんの予定です。
お楽しみに!!

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